【衣摺の戦い(丁未の乱)】物部氏が蘇我氏に滅ぼされた戦い

衣摺の戦い(きずりのたたかい)は、奈良時代に仏教認容を巡って大臣・蘇我馬子と大連・物部守屋が対立した結果として用明天皇2年(587年) 7月に勃発し、物部氏が滅亡した合戦です。

丁未の乱(ていびのらん)、丁未の変、丁未の役、物部守屋の変とも言われる飛鳥時代の2大豪族の権力争いです。

衣摺の戦いに至る経緯

仏教論争

飛鳥時代の583年に朝鮮半島の百済からヤマト政権に仏教が伝わります。

このとき、大和朝廷の2大勢力であった蘇我氏と物部氏のうち、蘇我氏は仏教容認の姿勢を示し、他方、物部氏は仏教拒絶の姿勢を示しました。

蘇我氏の主張は、仏教により、仏教の思想とあわせて大陸の進んだ文化を取り入れることができるので国が発展するというものでした(崇仏派)。

他方、物部氏の主張は、この国には元々八百万の神がおり、そこに異国の仏を入れると災いが起きるというものでした(廃仏派)。

政権内の勢力争いがそのまま仏教論争となったのです。

用明天皇による仏教容認の意思表示

用明天皇2年(587年) 4月2日、病に倒れた用明天皇が、仏教を容認する意思を示します。

これにより、ヤマト政権内は仏教容認に傾いていき、廃仏派の物部守屋を中心とする物部氏は、朝廷内で孤立していくようになります。

穴穂部皇子擁立計画失敗

用明天皇2年(587年)5月21日に用明天皇が崩御したのですが、後嗣が定まらず皇位は一時的に空位となります。

このとき、物部守屋は起死回生を狙って、穴穂部皇子を天皇として擁立し、自身はその下で権力を振おうと画策します。

ところが、この計画は、同年6月7日、蘇我馬子・厩戸皇子(聖徳太子)により、穴穂部皇子が殺害されたことにより失敗に終わります。

衣摺の戦い

物部守屋討伐を決定

物部守屋のクーデターを封じた蘇我馬子は、用明天皇2年(587年)7月、厩戸皇子(聖徳太子)、泊瀬部皇子、竹田皇子らの皇族達、群臣らと協議の上で物部守屋追討軍の派遣を決定します。

物部守屋が衣摺館に立て籠る

これに対し、物部守屋は、自身の本拠地であった河内国北部に戻り、一族を集めて河内国渋川郡にあった衣摺の館に立て籠もります。

その上で、物部守屋は、稲城(わらの束を家の周囲に積み上げた胸壁)を築くなどして衣摺の館の守りを固め、蘇我馬子軍を待ち受けます。

餌香川の戦い

対する蘇我馬子は、軍兵を率いて出陣し、軍を2手に分けて物部守屋が籠る衣摺の館に向かって進軍して行きます。

このとき、物部守屋軍は、河内国に入った蘇我馬子軍を餌香川(現在の石川)の河原で待ち受けたことにより戦いとなったのですが、双方多くの死傷者を出しただけで蘇我馬子軍の進軍を止めることはできませんでした。

衣摺の戦い(587年7月)

その後、蘇我馬子軍は、物部守屋の籠る衣摺の館に到着し、これを攻撃したのですが、物部氏は軍事を司る氏族として精鋭の戦闘集団でもあったために兵が強盛で、中々これを攻略できません。

また、物部守屋自身までも、朴の木の枝間によじ登り雨のように矢を射かけ、大いに奮闘し、苦戦する蘇我馬子軍は、撤退を強いられます。

一旦兵を退いた厩戸皇子は、仏法の加護を得るために白膠木を切って四天王の像彫り、それに勝利すれば仏塔をつくり仏法の弘通に努めると約束して戦勝を祈願し、再度、軍を立て直して衣摺の館に向かって進軍させます。

そうしたところ、その後の戦いで、蘇我馬子軍の迹見赤檮が、大木に登っていた物部守屋を射殺すことに成功したため、総大将を失った物部軍は総崩れとなり、戦いは蘇我馬子軍の勝利に終わります。

敗れた物部軍に対し、蘇我馬子軍がさらに一気に攻めかかり、物部一族を蹂躙します。

物部一族の多くは殺害され、また、子孫従類273人が四天王寺の奴婢にされます。さらに、生き残った者も行方不明となったり名を変えてひっそりと暮らしたりしていくようになりました。

なお、八尾市南太子堂には迹見赤檮が物部守屋を射たときの矢を埋めたとされる鏑矢塚が、その南西には弓を埋めたとされる弓代塚が残されています(迹見赤檮発箭地史蹟、とみのいちいはっせんちしせき)。

衣摺の戦い後

蘇我氏は、衣摺の戦いで物部守屋を討ち取ったことにより親子二代に渡って対立してきた宿敵・物部氏の勢力を滅亡させたことにより厩戸皇子と協力して大和朝廷内で更に権勢を強めていきます。

また、物部氏の滅亡により廃仏派の勢力が弱まったことから、仏教が積極的に取り入れられ、蘇我馬子が大和国に飛鳥寺を、厩戸皇子は摂津国に四天王寺を建立して、本格的に普及していくこととなります。なお、物部氏の領地と奴隷は等分され、半分を蘇我氏が(蘇我馬子の妻が物部守屋の妹であり、物部氏の相続権を主張したため。)、もう半分を四天王寺が取得することとなりました。

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