【山城築城の流れ】完成に至る全工程をわかりやすく

一般的な日本の「城」としては、水堀や石垣に囲まれた中に天守がそびえる構造物をイメージされるされる方が多いと思います。

このような城は、いわゆる近世城郭で、基本的には織田信長が築いた安土城以降に見られる限定的なものです。

現在日本全国に残る3万~5万とも言われる城跡のほどんどは、山地に築かれた土で造られた山城です。

誤解を恐れずに言うと、本来の日本の「城」とは、すなわち有史以前(特に鎌倉時代以降)から戦国時代に至るまでに築かれた多く(ほとんど)の城は、山の尾根上や河川の段丘などに土を切り開いて作られた山城なのです。

そのため、「城」という漢字も「土で成る」と書きます。

本稿では、この山城の建築手順について、地選→地取→縄張り→普請→作事と順を追って見ていきたいと思います。

地選・選地(場所選び)

城は、戦略目標上の必要性から築かれますが、領主の居城としては基本的には交通の要衝地に築かれます。

流通経済を牛耳るために必要であると共に、侵攻してくる敵軍が必ず通る場所だからです(進軍速度や兵站の観点から見て大軍が街道以外を通ることはほぼあり得ません。)。

そのため、山城は、そのほとんどがこれらの街道を見下ろす高地に築かれます(城下町は、通常街道沿いに整備されます。)。

では、街道沿いの高地であればどこでもいいかというとそうでもありません。

土木技術の発達していなかった時代には、自然の勾配・崖・川などを利用して防御施設とする必要がありましたので、防衛力の程度や築城の容易さがこの地選で大きく変わったからです。

そのため、この地選は極めて重要な意味を持ちます。

時代が経ることによって築城技術が発達し、斜面を加工したり、尾根筋を遮断したりするなどして人工的な防御施設を設けることが可能となっていっても、土木工事は少なければ少ないほど、築城時の負担が軽減できるため、地選の重要性は変わりません。

また、山城は山の上にありますので、兵站の問題がついて回ります。

特に、水源の確保は必須であり、水の出る高地であることも条件となります。

水がなくては戦えないからです。

さらに、国衆クラスを越えた守護クラスの居城となると、広域を治めるための権威も必要となってきますので、これらの諸条件に加えてその地で信仰を集める山が選ばれたりしているそうです。

地取

様々な条件を総合考慮して城の場所を決定すると、次は地選で決めたうちのどの場所において(山頂か中腹か)、どの方向のどの規模(山全体か山の一部か)の城を建てるのかを決定する必要があります。

現在の感覚でいうと、城は大きければ大きいほど守りが堅いかのようなイメージを持たれがちですが実際には違います。

山城の城主が動員できる兵力で守り切れる規模でなければなりません。

イメージを掴んでいただくために例を示すと、100人しか動員できない城主であると仮定すると、100人で江戸城・大坂城などの巨城を守るのと、小さな防衛砦を守るのとでどちらが容易かを考えてみればわかりやすいと思います(100人だと巨城の防衛施設を稼働させることができませんので、一瞬で城は落城します。)。

また、兵站上無理のない数を超えた兵数を収容できてしまってもいけないのです。兵糧攻めですぐに陥落します。

城は大きければ大きいほど堅城というわけではないのです。

小規模山城にも名城は沢山あります(二俣城などが堅城として有名です。)。

縄張り(設計)

地選・地取が済むといよいよ縄張り(城の設計)です。

縄張りとは城の設計をすることで、家を建てる際の間取図の作成みたいなイメージです。「縄張り」と呼ばれるのは、現地で作業をする際、最初に設計図に合わせて杭を立てそこに縄を張って曲輪の形や大きさの予定ラインを決める作業が行われていたことの名残です。

自然の地形は千差万別で1つとして同じものはありませんので、その地形に適した設計がなされます。

主郭・本丸をどこに置き、それを守る曲輪をどこにどのような規模でいくつ配置するか、また各曲輪を守る堀・土塁等をどのように配置するか、どのように配置すれば効果的に攻城兵を殲滅できるかを考えて決めていきます。

曲輪

曲輪は、その1つ1つが防衛単位となります。

山の突起部分を平に削るために必然的に円形となること、また同じ面積であれば円形が最も外周が小さいために最小の人数で防衛可能であることから、曲輪は円形になることが多くなります(そのために曲がった輪っかと書いて曲輪といいます。郭ともいいます。)。

以下の写真は、飯盛山城の立体模型なのですが、尾根筋に沿って削られた平坦地(白く見える部分)が全て曲輪となります(これは、最初の天下人となった三好長慶の居城ですのでこれほどの大規模な城となっていますが、通常は尾根筋に沿って数個の曲輪が配置されるのが一般的です。)。

① 主郭

城の縄張りは、最も重要な曲輪である主郭(本丸)をどこに配置するかから決めていきます。

主郭は、曲輪の中でも最も重要な曲輪(城主が指揮を取る場所であり、そこが落ちれば落城となる曲輪)で、通常は城内の最高所に配置されます。

もっとも、必ず最高所であるかというとそうでもなく、防衛目的や水の手の位置から違う場所に設けられることもあります。

② 主郭以外の曲輪

主郭の配置が決まったら、主郭以外の曲輪配置を決めます。

これも、地形構造を基に、どちらからどの程度の攻撃が予想されるかによって配置が決まります。

また、居住空間としての利便性を追求した戦国時代後期以降のものとは異なり、戦国時代中期以前の曲輪は堅牢性を最重要視していますので、館のおかれた曲輪はせいぜい1つ2つであり、その他の曲輪は単なる防衛拠点として使用されるのみでした。

③ 切岸

曲輪配置を決めたら、次は各曲輪の重要度に応じて、それぞれにどれ位の防御力を持たせるのかを決めます。

具体的には、曲輪の周囲を削って人工的な垂直の崖・急斜面(切岸)を築いたりします。

切岸は、数m~十数mに及ぶものもあり、虎口以外から曲輪に進入する経路を遮断し、防衛方向を1点に絞って効果的な防御を行うために築かれます。

④ 塀・柵

また、曲輪の周りに塀や柵を巡らして側面からの曲輪侵入を防ぎます。

空堀・土塁

曲輪配置が決まると、攻城兵の行軍を誘導するための誘導路を設けていきます。

なぜそのようなことをするかというと、攻城兵が取りついた場合に全方位から攻められると、通常寡兵となる籠城側では守りきれませんので、攻城兵の侵入路を限定させて効果的な反撃を行う必要があるからです。

この誘導路の設置は、斜面を登ってきて曲輪に取り付こうとする攻城兵の進路を塞いだり侵攻を遅らせたりすることが目的ですので、穴を掘ったり(堀)と土を盛ったり(土塁)することにより行われます。

そのため、曲輪配置が決まったら、城の形状から攻城兵の行軍を予想し、曲輪の周囲に堀を掘り、その残土を用いて土塁を造設する必要がありますので、これらの配置と種類・規模を決定します。

なお、通常は、堀を掘って出た土をその横に積み上げますので、堀と土塁はセットとして存在します。

(1)山城における堀の種類

なお、空堀は、攻城兵への攻撃を集中させる効用に加え、防御兵には通路として利用されました(水源の乏しい山城で水堀が築かれることは、ほとんどありません。)。

この堀の幅や深さは重要な意味を持っており、単に広ければいいというわけではありませんでした(広すぎると城内からも攻撃できなくなってしまうからです。)。

また、その時々の武器の種類によっても異なってきます(弓と鉄砲では射程も違います。)。

① 竪堀

斜面の移動を防ぐために設けられた堀のことです。等高線に対して直角に掘られます。

竪堀があると、攻城兵は、横移動が制限されることとなりこの竪堀の中を登っていく必要に迫られますので、高地に位置する守備兵から一直線に狙われることとなります。

なお、連続して竪堀が配置された場合「畝状竪堀(うねじょうたてぼり)」と呼ます。

② 横堀

曲輪の防備を固めるために曲輪を廻るように設けられる堀です。

等高線と平行になるように掘られます。

広大な規模を持つ場合が、多く見られます。

③ 障子掘

ワッフル型に掘られた箱堀であり、堀底に入ると縦横のいずれにも動けなくなるという造りとなっています。

(2)山城における土塁の種類

① 土塁

土を盛って造った土手のことで、土居とも言います。

いわゆる土壁であり、敵が登ってくるのを妨害します。

多くは、堀を掘った残土を盛って造られました。

② 石垣

山城にも石垣自体は飛鳥時代の古代山城の頃から存在していたのですが(百済からもたらされた概念・技術と言われます。)、当初は防衛のためというより雨水により土塁等が崩壊しないために、主に谷部などで土の支えとして使用されていました。そのため、古代山城の石垣は、単に平たい石を積み上げただけの簡単なものが多く、防衛自体は土塁が担っていました。

この構造が戦国時代に鉄砲が導入されたことです。

鉄砲の導入により、強固な防衛力・耐火力が必要となりますので、次第に山城にも石垣が採用されていくようになります。

また、石垣が組まれると、塁線の勾配が急になること、塁線ギリギリまで天守・櫓・土塀などの建築物が建てられるようになりますので、飛躍的に防衛力が上昇します。

堀切

堀と土塁で斜面を登って曲輪に取り付くことを制限されると、攻城側は堀や土塁を強行突破するか、あるいは見晴らしがよいために守備側からの攻撃にさらされる尾根上を進軍していくこととなります。

また、山城にはこの尾根筋を守る防衛手段もあり、その1つが堀切です。

堀切とは、尾根筋を登ってくる攻城兵の面前に崖を作り出し、その先に渡れないようにする防御施設です(ちなみに、上写真は飯盛山城の立体模型です。)。

一旦堀切の下に降りると対岸に登る際に、面前の対岸から集中攻撃を受けることとなります。

虎口

① 土橋

② 木橋

日常は通行路として使用し、籠城戦時には落として攻城兵の進入を防ぐ可動可能な橋です。

③ 虎口

城または各曲輪の出入口を虎口といいます。

城の出入口であるが故に、城の最大の弱点でもあります。

虎口を突破は、その曲輪の陥落を意味しますので、極めて重要な設備です。

この点、籠城だけであれば虎口を完全に閉ざしてしまえばいいように思えるのですが、籠城戦では、味方の後詰(援軍)の受け入れや、タイミングを見計らって打ってでたりしなければ籠城側の敗北が決まっている戦いです。

そのため、籠城側としても虎口を完全に閉ざすことはできないことから、ウイークポイントである虎口をいかに防衛するかがポイントとなります。

実際の城では、様々な趣向を凝らした守りが施されます。

通常は、屈曲を設けて見通しを悪くして攻城兵に効果的な反撃を行うことができるような形ににしたり(食い違い虎口)、上り坂にしえて足を止めたり(上り虎口)、堅固な門を設け、枡形・横矢を巡らすなどして防衛することとなります。

また、場合によっては馬出が設けられることもあります。

④ 枡形

虎口に四角形の空間を設けた上で、その2辺を塀などで囲むと共にその他の2辺を門(多聞櫓の場合も)とし、門を同時に開門しないことで敵を内部に留めて十字砲火で殲滅する構造です。

堀や石垣の塁線に対して外に出張っている外枡形虎口と、内側に収まる内枡形虎口とがあります。

⑤ 横矢(横矢掛り)

城の側面や通路上にある塁線を屈曲させたり凹凸を設けたりし、正面だけでなく側面からも射撃できるようにして防御側の攻撃力を高める構造です。

横矢は、城の最大の弱点である虎口の周辺に配置されることが多いです。

⑥ 馬出

虎口の城外側に設けられた小曲輪であり、敵の進入を防ぐ防衛施設であると共に、反撃するための攻撃施設でもあります。

また、この馬出は、城外から城内の行動の目隠しとなり、また防衛兵が反撃に繰り出す際の待機場所ともなります(関東の城では丸馬出が多いそうです。)。

根小屋(山麓の居館)

山城は高地にあり、また建物群も基本的には掘立柱建物であったために居住性が悪く、日常は山麓の居館(根小屋)で生活するのが一般的でした。

この場合の山城は、合戦などの有事の場合にのみ籠るものであり、詰城(つめじろ)と呼ばれます。

このような山城と寝小屋の使い分け例としては、甲斐国・武田氏の要害山城と躑躅ヶ崎館、越後国・朝倉氏の一乗谷城と一乗谷館などが有名です。

普請(土木工事)

縄張りが完成すると、いよいよ普請(ふしん)です。

普請は、地選で選んだ場所に、地取の大きさで、縄張りの通りの基礎工事をしていくこととなります。

山には平地がほとんどありませんので、ここで行う作業は、山を削って平らな土地を造り出すことから始まります。

山城築城時の普請は、ほぼその全てが土を掘って別の場所に盛るという土木工事になります。

また、城というものは、実際に使ってみないとそのウィークポイントが分からないので、実際には一旦築城された後に改築が施されていくこととなるのですが、まずは縄張りに沿った工事が進んでいきます。

重機がない時代ですので、鋤や鍬などを用いて人の手で土を堀り、もっこと呼ばれる運搬用具を用いて他の場所に運び、それを人の手で盛ります。

とんでもない重労働です。

実際の普請では、主郭を一番最初に造成します。

主郭となる部分について上から必要な範囲で削って平に整地し、切り岸で高さをつけます(円錐を円錐台にし、その後円柱にするイメージです。)。なお、戦国期の山城では、ここで切岸部に石垣を張り巡らすこともあります。

そして、主郭の普請が終わったら、同じ作業を主郭以外の曲輪となる部分にも行い、複数の曲輪を造成していきます。

そして、曲輪群への侵攻を防ぐための堀の掘削、土塁の盛り土、曲輪間の連絡路の整備とトラップの整備(堀切、土橋の設置など)を行います。

作事(建築工事)

普請が終わると天守や門などを建てる建築工事である「作事」が始まります。なお、実際には普請が終わった箇所から順に作事が始められましたので、城単位で見ると普請と作事は並行して作業がなされることとなります。

作事には普請奉行とは別の作事奉行が任命され、左官や大工など専門の職人が雇われました。

もっとも、山城は常時生活の場ではなく、合戦時の臨時使用のものであったため、山城に建てられる建築物は簡易的なものがほとんどでした(そのため、山城に天守が築かれるのは極めて稀です。)。

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